241214 事業承継学会にて事業承継M&Aに関するリサーチを発表

2024-12-14

2024年12月14日、第15回事業承継学会年次大会において、事業承継M&Aに関するリサーチプロジェクトチーム(サイバーアシスト吉村正裕氏、インテグリティサポート桐明幸弘氏、ソーシャルキャピタルマネジメント小林)による調査の背景、およびアンケートの結果、原因分析等の発表を行いました。

 

(共同発表者の吉村正裕氏)

 

 

背景:事業承継M&Aにおいて不適切な事例が社会問題化

 

事業承継は、日本の中小企業にとって喫緊の課題となっています。経済産業省の調査によれば、後継者がいない中小企業の割合は約7割にのぼり、これに対応する手段としてM&Aが推奨されています。しかし、そのプロセスにおいて問題点も多く報告されています。
本プロジェクトは、M&A仲介会社が中小企業経営者に対しどのような営業姿勢をとり、どの程度信頼に値する支援を行っているかを調査することで、業界の改善点を明らかにしようとするものです。

 

調査概要

 

アンケート調査は中小企業経営者や支援者を対象に実施され、回答者は126名にのぼりました。そのうち、62%が経営者または後継者、33%が支援者であり、調査対象は従業員30名未満の企業が65%を占めています。回答者の76%がM&A仲介会社との接点を持ち、その中で39%が仲介会社を起用した経験があると回答しました。

 

主な調査結果

 

営業姿勢に対する印象

調査対象者の75%以上がM&A仲介会社の営業姿勢にネガティブな印象を持っており、「非常に悪い」との評価が24%を占めました。好感を持つポイントとしては「プロセスの説明」や「実績に基づいたアドバイス」が挙げられる一方、悪印象を抱かせる要因としては「経営や事業への理解不足」「手数料目当ての姿勢」が指摘されています。

 

業務遂行にあたっての信頼性の欠如

M&A仲介会社が案件を遂行する際の信頼性については、「全く信頼できない」または「信頼できない」と答えた人が40%に達しました。特に、「相手先に関する十分な情報提供」や「企業経営や事業内容への理解」の不足が主な問題点として挙げられています。

 

不適切な営業例

調査では、具体的な不適切な営業例が多数報告されました。たとえば、虚偽の情報を用いて経営者に接触を試みる行為や、M&A仲介業者であることを隠した営業コンタクトが挙げられます。また、営業担当者の態度や高額な手数料設定が信頼を損ねる要因とされています。

 

問題の原因分析

 

調査結果をもとに、M&A仲介会社における問題点の原因分析を説明しました。主な原因として以下が挙げられます。

 

仲介会社の内部統制の問題: 従業員報酬体系がフィー収入に偏重していることが、不適切な営業姿勢を助長している。これをコントロールすべきガバナンス体制が十分機能していない。

 

業界団体の自主規制不足: 強制力のある規制が存在せず、業界団体の中核にあたる大手企業における不適切事例が相次いでいる。

 

M&Aに関するリテラシー不足: 中小企業経営者や仲介業者双方においてM&Aプロセスの理解が不足している。

 

監督体制の不備: 現在、M&A仲介業務に関する業法が存在せず、適切な監督が行われていない。

 

 

提言

 

調査結果を受け、リサーチプロジェクトからは、下記の提言が行われました。

 

  • 政府の監督強化: M&A仲介業務に関する業法を制定し、監督官庁を設けるべきではないか。

 

  • 中小企業経営者への教育: M&Aに関する正しい情報を提供し、リテラシー向上を図ることが必要。

 

  • 業界ガイドラインの実効性向上: 仲介会社に対し、信頼性の向上と適切な業務運営を求めるガイドラインの強化。

 

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本学会の開催にあたって、栗本大会委員長(名古屋商科大学学長)から、リーダーに不可欠な資質として、Knowledge, Skill, Attitude の3つが重要である旨の説明がありました。このうちのAttitudeは、倫理観、道徳観と共通し、「こうありたい」と思い行動する姿であり、ここが最も大きなドライバーである旨のお話がありました。

 

 

上記のようなアンケート結果に表される状態は、業界のリーダーとしてあるべき大手M&A仲介会社の姿勢として極めて問題があると言わざるを得ず、早期に是正されるように図っていくことが重要であると理解しています。

 

仲介会社の姿勢を正していくべく学会ベースでもアクションを取っていくことに加え、中小企業経営者側にも、M&Aに対する適切な理解、リテラシー向上を進めていくことに貢献していきたいと考えています。

 

事業承継は単なる経営の引き継ぎではなく、企業の“いのち”を次世代に繋ぐ重要なプロセスです。本調査を通じて、M&A仲介業界の課題が明らかにされ、改善の道筋が示されました。今後、本提言をもとに、より信頼されるM&Aの在り方が確立されることを期待します。

 

 

(学会が開催された名古屋商科大学丸の内キャンパス)

 

 

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