コラム・活動レポート

企業視察レポート 陽和

企業視察レポート 陽和

2025年12月12日 10:26

企業視察レポート:株式会社陽和(北九州市)

 

2025年12月9日、アタックスグループの「強くて愛される会社研究所」の視察ツアーに同行し、

福岡県北九州市にあります株式会社陽和を訪問しました。

陽和は、福岡県北九州市小倉南区朽網に本社工場を構える、エンジニアリングプラスチックの精密加工メーカーです。1954年創業、1958年設立。資本金2,000万円、従業員は約120名規模で、本社工場のほか東京・北品川に営業拠点を持っています。

事業内容は、フッ素樹脂(PTFE、PFAなど)を中心とした工業用機能部品の製造。素材のモールド成形から精密切削、溶着までを自社で一貫して行うことを強みとしており、ポリイミド、PEEK、PBIなどの高機能樹脂にも対応しています。主要な納入先は、半導体・エレクトロニクス、一般産業機械、ケミカル・薬品、食品製造、医療・分析機器といった、高い品質と信頼性が求められる分野です。

北九州市からは2011年に「北九州オンリーワン企業」として認定され、市長賞も受賞しており、地域からも高い技術力と独自性が評価されています。


【事業・技術の特徴】

陽和の技術的なコアは、「成形・切削・溶着」という3種の複合技術を自社内で融合している点にあります。高価で扱いの難しいフッ素樹脂にあえて特化し、素材成形から最終加工までワンストップで対応することで、「他社では難しい案件を引き受けられるオンリーワン企業」をめざしてきました。

フッ素樹脂は、耐熱性・耐薬品性・低摩擦性に優れ、半導体製造装置の部品、薬液やガスを扱うケミカル・医療分野、食品製造ラインなど、「止まると困る」「不具合が許されない」現場で重宝される素材です。その精密部品を、クリーン環境と高スペックな加工設備のもとで安定供給できることが、陽和の技術的な存在意義と言えます。

公式サイトでも、「フッ素樹脂に特化した独自技術」「素材成形から切削・溶着・インジェクション成形までの一貫生産」「創業以来培ってきた信頼性」という3点を、「陽和が選ばれる理由」として掲げています。


【経営理念と越出社長の経営スタイル】

社名「陽和」には、「明るい人の和を広げ、会社を発展させていきたい」という創業者の願いが込められています。その想いは企業理念として「明るい人の和を大切にし、社会に貢献する」と明文化され、「人の和」を企業風土の軸に据えた経営が続けられています。

代表取締役社長・越出理隆氏は、「人を基軸」とした経営を掲げ、フッ素樹脂に特化した高度な技術力と、社員一人ひとりの特性や能力を融合させる「和」の両輪で、ニッチ分野でのグローバルオンリーワンを目指すとメッセージしています。

その経営姿勢は、障害者雇用の取り組みにもよく表れています。特別支援学校からの実習受け入れ、全社員を巻き込んだ見学と意識改革、安全装置や作業手順の改善による「できないをできるに変える」工夫など、現場レベルでのきめ細かな配慮が紹介されています。

障害者雇用はもともとはあまり意識してこられなかったものの、坂本光司先生との出会いの中で、「障害者雇用はどのようにされているのか?」との質問から問題提起をいただいたことで、ここにもしか取り取り組まなくてはとの思いに至り対応を進めてきたとのことです。

第13回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞理由にも、①コア技術の深化によるオンリーワン製品の提供、②20年以上にわたる新卒社員の離職ゼロに象徴される「人を大切にする経営」、③障害者雇用や高齢者活用、業界団体での役員就任などの社会貢献が挙げられており、「技術」と「人」と「社会貢献」を一体で捉える経営の特徴がうかがえます。


【「強さ」を支える会社の強み】

陽和の「強さ」は、単に技術力や業績の話にとどまらず、次のような多層の強みとして整理できます。

  1. ニッチ分野でのオンリーワン技術
    高機能フッ素樹脂に特化し、成形・切削・溶着の3技術を一貫して提供できる企業は多くありません。北九州オンリーワン企業認定や、半導体・医療・食品など高付加価値分野への供給実績は、その技術ポジションの強さを物語っています。

  2. 高い顧客満足と品質志向
    経営理念には「モノづくりを通して技術で100%の顧客満足度を実現する」とあり、品質・コスト・納期に関する明確な方針を掲げています。ISO9001・ISO14001の認証取得や、クリーン環境での生産体制も含め、「不具合が許されない場所で安心して使える部品」を供給する企業として信頼を積み上げています。

  3. 離職率の低さと人材定着

社内で誰一人取り残さない、という考え方を社員が徹底してコミュニケーションにつなげています。その結果、困ったことがあれば何でも早めに相談できるっきょうが整っています。こうした努力の結果、中小企業にはきわめて稀なことですが、新卒社員の離職がほとんど発生しない(3年平均の離職率1.2%!)、という状態を継続してきています。
これは単なる数字ではなく、採用・育成・評価・働き方の全体が「人を大切にする」方向で整合していた結果といえます。

  1. 多様な人材を活かす包摂的な職場づくり

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の評価では、障害者雇用、高齢者活用、外国人技能実習生の受け入れなど、多様な人材が活躍できる職場づくりが高く評価されています。

  1. 健康経営・ワークライフバランスの実践
    北九州市のワークライフバランス表彰や健康づくり活動表彰で市長賞を受賞しており、健康診断・人間ドックの会社負担、メンタルヘルスカウンセリング、健康イベントなど、従業員と家族の健康支援に力を入れています。

これらが重なり合うことで、「技術的に強い」だけでなく、「人材面でも強い」「地域や社会から愛される」企業像が立ち上がってきます。


【社員の雰囲気とそれを形づくる取り組み】

陽和の雰囲気を一言で表すと、「技術志向の製造業でありながら、人の温かさと安心感がベースにある会社」といった印象です。その背景には、制度面と日々の運営の両側面からの工夫が見て取れます。

① 「人の和」を体感できる職場づくり

視察では、社長だけでなく社員5人が参加してトークセッション、質疑応答が行われました。その中でも、「良好な人間関係で『人の和』を実感」「心強い先輩社員に囲まれて成長できる」といったコメントが多く聞かれ、現場レベルでの心理的安全性の高さがうかがえます。

制度としても、新入社員や障がいのある社員を孤立させず、エルダー制度や小さな改善・5S活動を通じて、誰もが一人前の戦力として育つよう丁寧に支える文化が描かれています。

② ワークライフバランスと健康経営

同社では、男性育児休業の取得推進、時間外労働の抑制、有給休暇一斉取得日、メンタルヘルス相談室など、具体的な施策を取った結果、有給取得率95%、男性育休取得率92%を実現しています。

2025年には次世代育成支援に取り組む企業として「くるみん認定」を取得しており、「仕事と子育ての両立を応援する会社」であることが公的にも認められました。

③ イベントとコミュニケーションの工夫

創業記念行事や部署横断のレクリエーション、健康イベントなど、会社主催の催しが継続的に行われています。JEEDのレポートでは、リフレッシュコーナーの整備やチーム対抗の日帰り旅行・料理づくり・スポーツイベントなど、工夫された社内企画が紹介され、「縦・横の風通しの良さ」と「家族的な一体感」を高めていることがわかります。

これらの取り組みによって、「休みやすく、相談しやすく、挑戦しやすい」雰囲気が形づくられ、その結果として高い定着率や、障がい者を含む多様な人材がイキイキと働き続ける職場が実現していると考えられます。


【視察を通じた示唆(まとめ)】

強くて愛される会社の条件を、「技術・事業の強さ」と「人と社会からの信頼・愛着」の2軸で捉えたとき、陽和はその両面を高いレベルで満たしている企業だと言えます。

  • 技術面では、フッ素樹脂というニッチだが成長性の高い分野で、成形・切削・溶着の3種複合技術と一貫生産体制を築き、「他社ではできない仕事」を担うことで存在感を高めている。

  • 組織・人材面では、「明るい人の和」という理念を起点に、離職率の低さ、ワークライフバランス、障害者雇用・多様性の受容、健康経営、レクリエーションやイベントによる一体感醸成といった具体的な仕組みを積み重ね、「社員が辞めない会社」「社員が誇りを持てる会社」を実現している。

 

この2つはバラバラなものではなく、愛される会社になる努力を積み重ね、社員に愛される会社になっているからこそ、社員が誇りをもって仕事に取り組み、その結果高い技術力を誇る会社になっている、そしてそのような会社だからこその利益・成長を確保できることが、社員にも良い形で還元することができる、ということで、大きなハピネス循環を形成しているものと思います。

このビジネス面での良い循環を作り出しているのが人的資本におけるハピネス循環にあると思いました。皆が人を大切にするチームをつくる、それが採用の場面でも外部の人にも伝わる、そして良い人材が採用できる、その人たちが良いチームを形成する、という循環です。

 

この2つの循環があいまって、「強くて愛される会社」を形成していくのだ、ということをよく実感することができました。




このようなすばらしい会社を視察することができたことは大変良い勉強の機会になりました。

関係各位に心より感謝申し上げます。