
251028 アメリカ地政学プログラム参加報告会を開催
2025年12月25日 09:49
2025年10月28日、「アメリカ地政学プログラム参加報告会」を開催しました。本報告会では、9月にUCサンディエゴで実施された日本人リーダー向けの地政学プログラムの学びを共有し、激動する国際情勢の中で企業がどのように視野を広げ、経営戦略に落とし込むべきかを意見交換しました。
今回のプログラムは、太平洋の要衝に位置するカリフォルニア州サンディエゴにて、米中対立、ロシア情勢、インド太平洋の安全保障構造、技術覇権競争など、現代の地政学テーマを多角的に学ぶ内容でした。報告会は、単なる学術的な紹介ではなく、「いま世界で何が起きているのか、それが企業経営にどう影響するのか」を、参加者が自分事として捉える機会となりました。
■ UCサンディエゴでの学びと背景
今回のプログラムの舞台となったUCサンディエゴは、世界最高峰の研究大学として知られ、海洋学、AI、生命科学、政策学など多様な分野で最先端の知見を提供しています。また、アジアやラテンアメリカとも深い学術交流を持ち、米国の中でも「太平洋国家アメリカ」の最前線を体感できる場です。そこで出会う多国籍の研究者、政策関係者、軍事専門家との議論は、現地ならではの視点と臨場感をもたらしました。
プログラムを主宰した田村耕太郎氏は、日本企業や政策現場に地政学的思考の重要性を訴えてきた第一人者。田村氏の総括では、「変化の一次効果だけでなく、二次・三次効果にこそビジネスチャンスがある」「みにくいアヒルの子を見つけよ」といった示唆が示され、参加者からも「日本企業に必要な視座だ」との声が多く寄せられました。
■ 主要な講義テーマと示唆
① 米中技術覇権と中国の戦略
中国は模倣型モデルから脱却し、国家動員型の独自イノベーション体制を構築。軍事と民生の融合を推進し、2035年までに世界の科学技術リーダーを目指しています。AI、半導体、量子、深海開発など戦略領域への集中投資は、日本企業の技術戦略やサプライチェーンに大きな示唆を与えます。
② ロシアとユーラシア安全保障
ロシア・ウクライナ戦争は長期化し、地政学的緊張は続いています。ロシアの戦略文化・歴史的恐怖心、旧ソ連圏の民族構造を理解する必要性が強調されました。中国・ロシアの連携強化は、アジアの安全保障環境にも波及しています。
③ インド太平洋の米国同盟戦略
アジアにおける米国同盟構造は「ハブ・アンド・スポーク」モデルで機能しており、日本は最重要同盟国と評価されています。同時にトランプ政権時代の不確実性が示すように、「米国との関係は不動ではない」という前提が必要となります。
④ 日本企業が取るべき戦略
ウリケ・シェーデ教授の講義からも多くの示唆が得られました。日本は「メイド・イン・ジャパン」から、世界の製品を支える「ジャパン・インサイド」のポジションへ進化してきました。精密素材・部品分野における日本の優位性をいかに維持し、地政学的リスクを機会に変えるか——そのためには、「舞の海」戦略のような柔軟さと深い専門性が不可欠であると議論しました。
※ウリケ・シェーデ教授の「シン・日本の経営 悲観バイアスを排す」(2024年:日経プレミアシリーズ)はこの講義の根幹をまとめたもので大変参考になります。
■ 地政学×企業経営:なぜ今、学びが必要なのか
報告会では、地政学を企業が学ぶ意義として、以下の3点が共有されました。
サプライチェーン構造の変化に対応する視座
物流・人材・資本の流れが政治に左右されやすくなり、台湾海峡・南シナ海の緊張は日本企業にも直結します。
変化から機会をつかむ力
北極海航路の開発、脱炭素や気候変動、新興国市場の発展など、構造変化は新たなビジネスの入口となります。
情報の偏りを避ける思考
「日本語圏だけの情報は危うい」「立場の異なる視点で世界を見る」という学びは、グローバル経営の基本となります。
田村氏の言葉「分かっているのに動かない日本」を反転させ、学び・行動し続ける企業文化が必要だという点にも共感が得られました。
■ これからの日本企業とリーダー像
本報告会を通じ、「リーダーは危機を恐れるのではなく、だからこそ学び、行動する」という共通認識が生まれました。地政学的変化は、今後ますます企業経営に影響を与えます。私たちはこれからも、グローバルな視座を持ち、多様な学びの機会を提供することで、日本の次世代リーダー育成に貢献していきます。