第三者承継としてのM&Aで注意すべきこと

2021-04-28

企業戦略コンサルティング、事業承継支援、SDGs浸透支援など「企業とそこで働く一人一人が輝くためのサポート」を幅広く行うソーシャルキャピタルマネジメントです。今回は、事業の第三者承継としてのM&Aを考えるにあたり、注意点すべきポイントについていくつかお話させていただきたいと思います。
 

第三者承継としてのM&Aはニーズが高まっている

ここ数年、第三者承継としてのM&Aへのニーズが高まっています。後継者がいない中小企業の経営者が誰かに事業を承継させたいと思ったとき、M&Aは非常に重要な選択肢であり、ぜひとも成功させたいと願うものです。しかし、いままで一度も経験したことがないため、どのように進めたらよいのかまったくわからないというケースも多々あります。

このようなニーズを受け、M&A仲介業者やM&Aアドバイザーも急増していますが、残念ながら中には手数料を稼ぐための“手段”としてこれらの仕事を選んでいるという人もいます。

M&Aの最大の目的は、事業承継によって事業と社員を守ることです。このことを理解していれば、決してお金儲けの手段として「そうだ、M&Aをやろう」とはならないはずです。このような現実も踏まえて、企業経営者は適切なM&Aアドバイザーを選ぶことがますます大事になってきています。
 

M&Aで実際にあった驚くべき話


 
以下にご紹介する話はほんの一例ですが、M&Aでは経営者が苦い経験をしてしまうことが残念ながら多々あるのです。

・業者から示された企業価値は明らかに低く、自社の正当な価値がわからないままプロセスが進んでしまった。業者は効率性を最優先しているように感じた。

・アドバイザーに払う手数料が高すぎる。しかも両サイド(売り手と買い手側)から取っていて、合わせると10%ものフィーになるのはおかしい。それだけの仕事をやってくれるなら良いが、実際には両社の顔合わせをして、「あとはお互いにやってください」という程度の場合もある。

・業者が価格のことにしか興味がない。今まで経営してきた会社への思いをしっかり継いでもらいたいと思っているのに、そのようなことには関心がまったくなく、「いくらで売れますよ」ということしか言ってこない。
 

オーナーとしての心構えがM&Aを左右する

M&Aは仲介業者の言いなりに進めても満足のいく結果にはなりません。M&Aアドバイザーも玉石混交で、中には十分な知識もないまま小手先の技術だけでM&A業務を行っているアドバイザーもいます。オーナーとしては、M&Aに際して全てを仲介業者に任せるのではなく、根本的な考えや方針を明確に持っておくことが必要です。
 

1.オーナーとしての優先順位を決めておく

譲れないポイントを明確にするということです。今まで会社を経営するうえで大切にしてきたことを一つ一つ洗い出し、プライオリティーをつけます。そして新しいオーナーに承継してもらいたい部分と変えるべき部分を決めていきます。これらは譲渡価格にも関係してくるデリケートな作業なので、M&Aアドバイザー任せにせずに時間をかけてでも自分たちで行いましょう。
 

2.譲渡価格のイメージを持っておく

譲渡価格の目途も、交渉に入る前にイメージを持っておくべきでしょう。そもそも適正価格とは何なのか、常にオーナーとしては抑えておきたいところです。また、譲渡価格を考える時には、譲渡後(引退後)の資金としてどれだけ確保しておかなくてはいけないかという観点から逆算していくことも必要です。
 

3.譲渡後のマネジメントまで考えておく

M&Aで譲渡が行われた後の引継ぎは非常に重要です。譲渡後のマネジメント(Post-M&A Integration/PMI)がM&Aの成否を決めると言っても過言ではありません。しかしながら、M&Aアドバイザーの多くはM&Aが終わったあとまではサポートしてくれません。このようなことからオーナーとしては譲渡後の引継ぎから向こう数年の関わり方まで、マネジメントに関する自身の考えを整理しておくとよいでしょう。
 

アドバイザーの選び方、注意したいポイント


 

1.企業経営者の思いへの適切な理解、品格と人格

M&Aアドバイザーには企業経営者が築いてきたものに対する敬意と、その思いを理解する姿勢が備わっていることが望まれています。お互いが高いレベルで信頼関係を築くためにも、M&Aアドバイザーが品格と人格がある「Trusted Advisor」なのかどうか見極めることが必要です。
 

2.事業内容、顧客、従業員、技術などに関する十分な理解

M&Aアドバイザーに求められるのは、売り手企業・買い手企業に対する深い理解と分析力です。双方の企業の事業内容、業界動向、顧客、仕入先との力関係、今後の事業環境の変化の可能性、ポテンシャルなどを十分にリサーチして分析し、的確なアドバイスができることがM&Aアドバイザーには期待されています。
 

3.幅広い譲受希望企業の情報・アプローチ

M&Aでは買い手候補となる企業がアドバイザーの提案する企業一択ではありません。何らかの伝手や理由があって強く進める企業があるかもしれませんが、幅広い候補の中から最高の選択肢を選ぶのが本来の健全なM&Aのあり方です。このような意味において、フェア且つ質の高い情報提供を行ってくれるM&Aアドバイザーを見極めることが重要になってきます。
 

4.企業経営者の側に立ってくれているのか

M&Aアドバイザーに必要とされるのは、交渉代理人としての「忠実義務」です。自分にとっての利害を優先し、委託者である売り手企業経営者の思いをないがしろにするようなアドバイザーは失格と考えてもよいでしょう。
 

5.譲渡後まで見守ってくれる伴走者

経営者にとってはM&Aによる株式譲渡がゴールではありません。その後の引き継ぎが円滑に進み、新オーナーの元で社員が新たな活路を見出すようになるまでを見届けるのが経営者の本望でもあります。そして、M&Aアドバイザーはこのような経営者の思いに寄り添い、株式譲渡後も伴走するまでが理想的な関わりなのかもしれません。何かあった時には気軽に相談でき、場合によってはPMIの専門家を紹介してくれるなど懐の深いアドバイザーかどうかも重要なポイントです。
 

6.M&Aアドバイザーは一人だけではない

M&Aはほとんどの経営者にとって初めての経験です。明確な答えがない中で、契約をしたM&Aアドバイザーのやり方/考え方に追従して案件を進めていくわけですが、もしその過程で疑問点や違和感を感じたら、別のM&Aアドバイザーにセカンドオピニオンを求めることも可能です。このことは中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも言及されています。「よくわからないから専門家にまかせよう」というスタンスでは満足のいくM&Aが実現しません。そもそもM&Aとは経営者が誰よりも強く当事者意識を持って、隅々まで納得のいく話としてアドバイザーと共に協働していく作業です。

経営者とM&Aアドバイザーの間には、「信頼と尊敬の念」が求められます。それによって、「最高の業務が完遂」するのです。ぜひ、そのような信頼関係を構築できるアドバイザーを慎重に選んでいただけることを願います。
 

※書籍のご紹介

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ここで掲載した事業承継M&Aの話だけでなく、ビジネス、ファミリー、オーナーシップなど、事業承継の際に考えなくてはいけないさまざまな論点について、実務経験豊富なアドバイザーが事例に基づいてわかりやすく解説しています。是非、ご覧下さい。
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