SDGs対談:「子どもたちを箱から出して自由に!」 Out of Box プロジェクトとは?
2021-10-22
ソーシャルキャピタルマネジメントでは、さまざまな方々とパートナーシップを形成し、コラボレーションしながら社会課題解決を目指しています。1社でできること、ひとりでできることには限界がある中、パートナーシップは必須です。SDGsの17のゴールの中でも、17番目のゴール「パートナーシップで目標を達成しよう」とありますが、SCMのアクションはここが軸になっています。
今回は、デンマーク株式会社の有澤和歌子さんとの対談を通じ、当社のSDGsへの取り組み姿勢をご理解いただくとともに、有澤さんがデンマーク株式会社を通じて実現させようとチャレンジしている姿をご紹介したいと思います。
「周囲の大人たち」が子供たちの選択肢を狭くしている
小林:
今日は、日本の教育に新しい風を吹き込んでいるデンマーク株式会社 代表取締役の有澤和歌子さんにお話しを伺います。有澤さんは、富士通株式会社に長らくお勤めになった後、複数のベンチャービジネスを経験し、2016年からカンボジアのキリロム工科大学のITエンジニア教育事業に携わりました。その後、デンマーク留学を経験し、帰国直後「デンマーク株式会社」を設立されました。そのあたりの経緯から伺えますか?
有澤:
起業のきっかけは、私自身がデンマークのフォルケホイスコーレに留学したことです。もともと「国民幸福度」の高い北欧に興味があった私ですが、年齢を重ねるとともに「幸せとはなにか?」を考える機会が多くなりました。特に日本の子供たちを取り囲む環境に疑問を持ち始めていたのです。
キリロム工科大学の事務局長時代には、たくさんの保護者の方々と対話をしてきました。そこで気づいたことは、ご両親や学校の先生といった「周囲の大人たち」が子供たちの選択肢を狭くしていることです。私も地方出身者ですからよく分かるのですが、東京の私立大学よりも「地元の国公立大学に通わせたい」と思う親は今でも珍しくありません。オックスフォード大学等の海外の名門大学に行きたいお子さんに対しても「海外の大学は日本の大学に入学した後の1年で十分だ」と断念させた教師や保護者にもお会いしました。
進路の選択に「正解」は存在しないものの、海外経験のない大人たちが留学という「選択肢」を否定することには強い違和感を覚えてしまいます。これらは1つの例に過ぎませんが「どんな大人たちに囲まれているのか」で、子供たちの選択肢は大きく変化すると思うのです。
「日本の子供たちは、目に見えない透明の箱に囲まれている!」
「子供たちの未来の選択肢を広げる仕事がしたい!」
「そのためには大人から変わらなければいけない!」
「まずは自分から一歩外に踏み出してみよう!」
という思考回路で、57歳でのデンマーク留学を決意しました。
小林:
親にはそれぞれ過去の経験があって、それに基づいて「当たり前」の価値基準が形成されがちですよね。ずっと同じ会社に勤めていると、どうしても井の中の蛙になってしまう。私の周囲にも俗にいう大企業組が多いのですが、過去の「当たり前」を手放せなくて苦労している大人は少なくありません。余談ですが、私自身、大手金融機関を52歳で退職したのですが、当時の元会長から「52歳ならあと4回は失敗できるな!」と言われ、急に肩の荷が下りたことを覚えています。生活の糧を守りつつも、ミドル世代・シニア世代こそもっと外に視野を広げるべきだと感じます。
有澤さんにとって、デンマークで学んだことは大きかったですか?
世界一幸せな国デンマークの「フォルケホイスコーレ」に学ぶ
有澤:
デンマークの「フォルケホイスコーレ」で学んだことは私を大きく成長させてくれました。日本では聞きなれない「フォルケホイスコーレ」について少し説明します。今では世界一幸せな国といわれるデンマークですが、過去の度重なる戦争で1813年に国家財政が破綻しました。その後、ニコライ・F・S・グルントヴィが「デンマークの資源は人々の頭脳しかない」と説き、国民の眠れる才能を開花させるために教育運動を行いました。この彼の理念から民衆の知識と教養を高めることを目的に1844年に誕生したのが、「フォルケホイスコーレ」という独自の教育機関です。
フォルケホイスコーレは、17.5歳以上であれば誰でも入学できる全寮制の学校で、デンマーク国内に約70校あります。デンマークでは、教育はこどもだけが受けるものではなく「国民全員の義務であり権利」です。子供たちのWell-being(幸福)を重視した非競争的な教育を掲げ、小学校の教育目標は「Global Citizen」になること。日本の「就学義務」とは正反対の考え方です。
小林:
デンマークの教育制度は、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」が体現されているばかりか、社会全体で学ぶための自由を担保しているのですね。
有澤:
おっしゃる通りです。デンマークでもっとも大切にされていることは、「Liberation」です。「Liberation(真の自由)」は、「Equality(平等)」や「Equity(公平)」という概念を凌駕するものです。
デンマークから帰国した私は「日本の子供たちが、自分の可能性を知り、自分の人生を楽しみに感じながら、思い込みや従来の常識を乗り越えて主体的に挑戦や選択ができるような社会を実現したい!」このような想いをSNSに発信しました。すると、小林さんから「応援します!サポートします!」と第一号のレスポンスをいただきました。そして、「できますよ、やってみたら!」という小林さんの一言が私の背中を押し、2021年の3月にデンマーク株式会社を設立して事業を開始しました。デンマークから帰国した3ヶ月後のことです。
子供たちを「透明の箱から出したい!」
小林:
人は深刻に考えれば考えるほど動けなくなってしまうものです。想いがあるなら「まずは動いてみること」が大切です。うまくいけばそのまま進めば良いですし、うまくいかなければ戻れば良い。大切なのは一歩を踏み出すことですよね。会社設立からまだ半年しか経過していませんが、有澤さんはアクションも早いですよね。弊社(株式会社ソーシャルキャピタルマネジメント:以下SCM)も協力会社としてプロジェクトの支援をはじめました。
有澤:
子供たちを「透明の箱から出したい!」という趣旨で、現在「Out of Boxプロジェクト」という企画を推進しています。学校の外の大人たちの力をあつめ、様々な Out of Box の機会を情報の届きにくい子どもたちにも届けられる持続可能な仕組みをつくりたいのです。
このプロジェクトを推進させるためには「学校側の予算」「先生の負担が大きいこと」「授業の質と量の担保」などいくつかの障壁があります。しかし、「子供たちに何かを伝えたい人」「運営を手伝いたい人」「授業資金を支援したい人」をうまく結びつけながら、活動をスタートすることができました。
また、SCMの協力で、全国の小中高校に寄付講座の提供も開始できました。1コマ50分の寄付講座は講師サイドからの一方的な情報発信にとどまらず、グループワークを必ず実施します。「算数のドリルをグループでやるメリットとデメリットは?」「友達から同性愛を告白されたらどうしますか?」など、正解の存在しない問いかけをすることが特徴です。普段は考えていないテーマを議論することで「そんな考え方があったのか!」「いつも一緒にいる人が違う人みたいな発言をしている」というような新しい発見と小さなダイバーシティを生み出します。
小林:
SCMは、SDGs関連に限らず、企業研修からファミリービジネス支援まで幅広いのですが、端的に「会社と会社」「人と人」をつなげる仕事をしています。1つ1つの仕事は、個人や組織が幸せになるため、という「WHY」でつながっています。この考えはSDGsにも、有澤さんのビジョンにも共通していると思います。今後のコラボレーションを楽しみにしています。
プロフィール
有澤和歌子(ありさわわかこ)
デンマークの留学経験で得たヒントから起業を決意。2021年にデンマーク株式会社を設立。日本の学校を世界と繋ぎ、子どもたちが「自ら透明の箱を飛び出す」きっかけとなる授業を展開している。働くお母さん歴20年。精華学園通信制高校探究アカデミー東京校 親子の学びアドバイザー、Flamingo Magic Hatアンバサダーなど幅広く活躍している。